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人的資本の情報開示が求められる背景と日本企業の動向を紹介

人的資本の情報開示が求められる背景と日本企業の動向を紹介

人的資本の情報開示という言葉がさまざまな媒体で聞かれるようになっています。
欧米では、人的資本の情報開示に関する法制化も進められています。
このように、海外の先進国ではめずらしくない人的資本の情報開示ですが、日本ではどうなのでしょう。
今回は、人的資本の概要とその情報開示が求められる背景や日本の動向などについて紹介します。

人的資本とは?

資本とは、生産の3大要素(土地・資本・労働)の1つで、主に投資の対象物のことです。
資本には、有形資本(貨幣・土地・建物・機械など)と無形資本(人間の持つスキル・著作権・特許権など)があります。
もちろん、人的資本は無形資本の1つです。
人的資本は決して新しい考え方ではありません。
その起源は、英国の経済学者アダム・スミス(1723〜1790)の著書「国富論」の中に見出されています。
その後、複数の経済学者によって再定義が行われ、人的資本という概念が生み出されます。
現代では、経済的収益のみでなく、健康や幸福感といった非経済的収益も含めて人的資本と呼ばれています。

OECD(経済協力開発機構)によると、人的資本とは「個人的・社会的・経済的厚生に寄与する知識・技能・能力および属性で、個々人に備わっているもの」と定義されています。
ただし、この定義はあくまで人的資本という全体像の定義です。
経営の世界においては、「人材が持つスキルや資質などへの投資によって付加価値が生み出せる資本」のことを、一般的に人的資本に呼んでいます。
経営学では、資本への投資によって将来に得られる価値が増幅すると考えられているためです。
人的資本は、従業員数や人件費などを数値によって示せますが、有形資本のように生産性の機械的な向上は望めません。
ただし、中長期的な観点から人へ投資することで、生産性の向上が期待できるようになります。
また、企業の価値観は、有形資本から無形資本重視へと移行しつつあります。
これは、世界的な潮流であり、その流れに乗る企業は日本でも少なくありません。
特に、グローバル企業にその傾向が高く、約8割が移行しているという調査結果もあります。

人的資本の情報開示が要求される背景

人材を資本と考えて投資することで、中長期的な企業価値の向上につなげようとする経営手法を人的資本経営と呼びます。
人的資本経営においては、人的資本に関する情報開示が求められます。
その背景にあるのは、証券市場からの要求の高まりです。
これには、人的資産を含む無形資産への関心の高まりが影響しています。
その要因として挙げられるのが、世界的なESG投資の増大です。
ESGは、Environment(環境)Social(社会)Governance(統治・管理・支配)を考慮した取り組みのことで、ESGに取り組んでいる企業へ投資することをESG投資と呼びます。

財務省によると、2018年における世界のESG投資額は30兆ドルで、2014年から70%拡大しています。
国内においても、投資にESGの組み入れを掲げるPRI(国連責任投資原則)にGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が署名したことで、2015年頃からESG投資への関心が高まりを見せています。
そのため、環境問題や社会問題、健全な企業運営などの意識が低い企業は、投資対象としての価値の低下が避けられません。
このような時代において投資を呼び込むためには、企業のサステナビリティ(持続可能性)を向上させられる人材への投資が必要です。
一方で、ESG投資を行う投資家にとっては、財務状況とともに人的資本の情報開示が重要な判断材料となります。
このように、投資先に選んでもらうためにはESGに取り組むとともに、投資家の要求に応じた人的資本の情報開示が重要です。

また、世界的なESG投資の増大に伴い、東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コードに人的資本の情報開示が追加されたこと、ISO30414の公開、SEC(米国証券取引委員会)による法制化なども背景として挙げられます。
コーポレートガバナンス・コードは、上場企業のコーポレートガバナンス(企業統治)の原則と指針を示したガイドラインです。
投資家は本ガイドラインによって、企業が透明性を確保しつつ健全な企業統治に取り組んでいるかが判断できます。
ISO30414は、2018年にISO(国際標準化機構)が公開した人的資本の情報開示に関するガイドラインです。
ISO30414の指針に則ることで、企業は人的資本の定量化・可視化が可能になり、投資家は企業の人的資本の状況を定性的・定量的に把握できます。
また、SEC(米国証券取引委員会)による法制化とは、2020年に制定された全上場企業に対する人的資本の情報開示の義務化のことです。

人的資本の情報開示に関する日本の動向

日本では、国レベルでも人的資本の情報開示を推進しています。
そのための専門家による研究も実施されていますが、最も有名なのは経済産業省による「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 」です。
その研究結果は、2020年に人材版伊藤レポートとして報告されています。
本レポートは、インターネットで公表されていて誰でも閲覧可能です。
また、金融庁では2018年から人的資本の情報開示に役立つ、投資家との建設的な対話の検討を開始しています。
投資家側も、人的資本に関する企業の考え方や、企業による人的資本マネジメントに高い関心を抱いていることが、2021年に開催された投資家フォーラムで明らかになっています。

2021年に開示された日経225採用企業の統合報告書などによると、日本企業はジェンダーと福利厚生に関する情報開示が多く、特に女性従業員情報は6割強という高さです。
その一方で、退職金やストックオプションに関しては情報開示が少ない傾向にあります。
さらに、2022年に民間企業が行った日本企業の人的資本の情報開示に関する動向調査の結果は、次の通りです。
まず、調査に応じた企業の6割強が人的資本経営の実施や準備をしています。
ただし、人的資本の情報開示を行ったり準備を進めたりしている企業のうち、9割強が上場企業です。
そのうち、8割弱の企業が情報の集約方法と開示する範囲などに課題を感じているようです。
また、上場・未上場ともに最も取り組みたい事柄として、従業員データの可視化を挙げています。
そのうえで、7割強の企業が関心を寄せているのが、人的資本の情報開示を支援してくれるサービスという結果が出ています。

従業員が定着・活躍できる組織を作ろう

今回は、人的資本の概要とその情報開示が求められる背景や日本の動向などについて紹介しました。
従業員が定着・活躍できる組織を作るために、自社の従業員の特徴や強みをしっかりと把握し、それぞれがやりがいを持って仕事を行えるよう、人員配置や教育、社内制度を通じた支援を行いましょう。

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