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人的資本経営とは?必要な視点と要素、事例について紹介
「人的資本」という言葉が企業経営のトピックになってきています。
その背景には、これまでの日本的経営について改革の必要性の認識があるようです。
特に、人材マネジメントについて企業経営の中核的な課題として捉えてこなかったのではないかという反省の声が聞かれます。
今回は、これからの人材戦略に求められる「人的資本経営」ついて3P・5Fモデルを中心に紹介します。
もくじ
人的資本経営とは?
組織の価値を考える際の指標の一つに「従業員エンゲージメント」があります。
これは、帰属する組織に対して「高い熱意を持つ社員」の割合を示すものです。
2017年に米国の調査会社であるギャラップ社が世界1300万人のビジネスパーソンの従業員エンゲージメントを調査した結果に、多くの日本企業の経営者は衝撃を受けたようです。
日本企業の社員の従業員エンゲージメントは最下位レベルであり、「周囲に不満をまき散らしている無気力な社員」の割合が2割、「やる気のない社員」は7割というものだったからです。
かつて、日本企業は欧米と比べて人を大切にすると信じられていました。
経営の神様とも称される松下幸之助は「事業は人なり」という言葉で人間尊重経営を説き、多くの経営者の指針となっています。
しかしながら、現在の経営環境における人材マネジメントは、その理想に近づけていないのではないかという疑問が多くの経営学研究者から提起されています。
人的資本経営は、そのような危機感から注目を集めています。
人材を「資本」とみなすことで、短期ではなく中長期的企業価値をいかに向上させるかを目標に、経済産業省などが中心となり改善すべき項目が具体的に示されています。
人的資本経営を考える際に常に意識しておくべき思考の枠組みがあります。
それが人材戦略に求められる「3P・5Fモデル」です。
3Pとは3つの視点(Perspective)であり、5Fとは5つの構成要素(Factor)のことです。
以下で各項目について具体的に説明します。
人的資本経営の3つのパースペクティブ
パースペクティブ1:経営戦略と人材戦略の連動
「経営戦略」とは、企業の将来を決める重要な指標です。
経済的・社会的・文化的な価値を将来に向けていかに創造していくか、またその実現のためにはいかなる体制を構築すべきかについて明確に示す必要があります。
一方で、「人材戦略」とは、経営戦略を実現させるための、採用・育成・配置など人事に関わる業務やオペレーションに関するビジョンのことです。
この両者は連動することで相乗効果を得られるのですが、多くの企業で関わりが薄いことが指摘されており、改善が望まれます。
パースペクティブ2:経営戦略と人材戦略のギャップの把握
魅力的な経営戦略を提示できたとしても、それを実現する人材が確保できなければ「絵に描いた餅」となりかねません。
そのため、経営戦略が求める人材を採用・育成・配置できるかどうかが問題となります。
とはいえ、実際のところ、経営戦略を見据えた人材戦略を持つ企業はそれほど多くはありません。
そこで、人的資本経営にシフトするためには、まず経営戦略と人材戦略、及び現在抱える多様な人材とのギャップを把握して可視化することが重要になります。
パースペクティブ3:人材を資本と捉える企業文化
多くの企業の従来型の人材戦略では、「人材は資源」と捉える傾向が見られました。
つまり、人材は管理対象であり、新たな価値創造の可能性を生み出す存在として、社員の自律性や自立性を育む視点が欠けていたのです。
そのような状況を改善するために、人的資本経営を企業に浸透させようとすれば、人材戦略の適用プロセスに注意を払う必要があります。
組織や個人の考え方や行動を柔軟に捉えなおすことを許容する企業文化を持てるかどうか。
この変革が問題となります。
人的資本経営の5つのファクター
ファクター1:動的な人材ポートフォリオ
経営戦略に示されるビジョンやビジネスモデルを実現するには、適材適所に多様な人材を配置することが不可欠です。
このとき有効な考え方が「人材ポートフォリオ」です。
投資の際にローリスク・ハイリターンを実現するための資産構成を「ポートフォリオ」と呼びます。
債権・株式・仮想通貨・金などをどのように組み合わせるかという方法論は、企業の人材構成にも応用できます。
従来の人材ポートフォリオでは、オペレーション・エキスパート・オフィサー・マネジメントの各人材を4象限マトリックスで分類する手法がよく知られています。
人的資本経営では、それらをさらに柔軟に組み替えていく態度が重要です。
なお、人材ポートフォリオを機能させるための前提として、各個人の適性を可視化しておく必要があります。
ファクター2:知・経験のダイバーシティ&インクルージョン
ダイバーシティは「多様性」、インクルージョンは「包括または受容」と訳されます。
一般的には、年齢・性別・民族・国籍などに関わらず、誰もが個性や能力を最大限に発揮して活躍できる場を重視する文脈で使われます。
企業の人的資本経営では、それに加えてさらに価値創造に着目した概念となります。
つまり、個人が持つさまざまな知的スキルや、それまでのキャリアにより培われた経験知についてのダイバーシティ&インクルージョンを重視します。
ファクター3:リスキル・学び直
企業が抱える人材の持つスキルやキャリアを可視化すると、経営戦略ビジョンの実現に必要な人材との間のギャップが明確になります。
人的資本経営では、そのギャップをいかに埋めていくかを考えます。
既存の人材に対する新しい技術の習得や能力向上のためのリスキル(re-skill)を推進していきます。
具体的な方向性としては、サービスや業務のDX(デジタル・トランスフォーメーション)化の推進役としてのDX人材の育成などがあります。
対象としては、コア年齢層と呼ばれる40〜50代社員の活性化がとくに注目されており、リスキルを後押しする制度や施策の充実が期待されています。
ファクター4:従業員エンゲージメント
多様な価値観を持つ個人としての社員が、情熱を持って意欲的に仕事に取り組める環境の構築と維持は、すでに述べたように人的資本経営の基本です。
従業員満足度(ES, Employee Satisfaction)は、企業が提供する福利厚生によって得られるものよりも、社員の自立的・自律的・自発的なエンゲージメントに期待すべきでしょう。
ファクター5:柔軟な働き方
新型感染症の流行によって、在宅勤務というワークスタイルが一般化しています。
しかしながら、人事管理という観点からはネガティブに捉える傾向も見られます。
数時間ごとに社員の自宅に電話を掛けて在宅チェックを行う人事担当者が話題になりましたが、ここには人材を管理対象として捉える発想が垣間見えます。
その一方で、ポジティブに考えれば、柔軟な働き方の選択肢が増えたともいえるでしょう。
人的資本経営によって社員のエンゲージメントを高めるためには、働き方についてより柔軟で生産的なアプローチを考える必要があります。
人的資本経営の事例:東京海上グループ
グローバルに展開する保険会社である東京海上グループでは、「ダイバーシティ&インクルージョン推進」が経営戦略の中で重要な位置を占めています。
具体的な施策として、CEOがトップを務めるダイバーシティ・カウンシルが設置され、プロジェクトリスト制度など創設されています。
この制度は、柔軟な働き方をサポートするもので、所属部署の垣根を超えて本店のプロジェクトへの参加を可能にしています。
従業員が定着・活躍できる組織を作ろう
今回は、これからの人材戦略に求められる「人的資本経営」ついて3P・5Fモデルなどについて紹介しました。
従業員が定着・活躍できる組織を作るために、自社の従業員の特徴や強みをしっかりと把握し、それぞれがやりがいを持って仕事を行えるよう、人員配置や教育、社内制度を通じた支援を行いましょう。
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