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経営の未来を考える 〜ビジネスパーソンが注目すべき「人材定着・リテンションマネジメント」とは〜

はじめに

労働人口不足やコロナショックによって働く従業員の意識変化が起きる中、今後企業はどう人材定着に取り組んでいくべきなのでしょうか。
今回はTakeAction代表取締役の成田が、人材定着についての研究の第一人者である青山学院大学の山本教授にお話を伺いました。

青山学院大学 経営学部 経営学科 山本寛教授

人的資源管理論担当。博士(経営学)。メルボルン大学客員研究員歴任。働く人のキャリアとそれに関わる組織のマネジメントの問題が専門。日本経営協会・経営科学文献賞など受賞。「連鎖退職」「なぜ、御社は若手が辞めるのか」「中だるみ社員」の罠」著者

 

株式会社Take Action 代表取締役 成田靖也

2010年株式会社TakeAction設立。「定着業界を日本の新基準に」というビジョンを掲げ、組織の採用支援・定着支援・活躍支援を行っている。主な著書に「社員が辞めない会社の作り方~エンゲージメントのすべて~」「志事の流儀~従業員ファースト~」がある。

 

Take Actionが人材定着に取り組み始めた理由

成田:

弊社は当初、採用支援会社としてスタートしました。

採用支援会社は、もちろんクライアントの採用を成功させることで利益をあげるのが通常なのですが、ある時、人が辞める会社の方が儲かってしまうことに気付いてしまったんですよね。

例えば、採用のお手伝いをしてクライアントが10名採用に成功し、1年後に9名辞めてしまったとき、「残念でしたね」とクライントに声をかけている反面、頭の中では次に提案する見積もりを頭の中で計算している自分がいたんです。結局、顧客の離職が採用会社の喜びになっているわけです。

そこで、クライアントの本当の採用成功について考えたときに、「人材の定着と活躍」であることに気づき、その成功にきちんとサービスを提供したいと思うようになりました。

ただ、定着には様々な要素が絡み合ってくるため、定着の支援と言っても実際に弊社が定着支援できたのか、クライアントの努力で定着させたのかという責任の所在が曖昧になります。そこで、「THANKS GIFT」や「BEST TEAM」などのサービスを商品化することで、採用コンサル会社からプロダクトをちゃんと持ち、顧客の定着、活躍に向き合っていこうと会社を少しずつ変化させてきたのが、これまで経緯です。

今回、山本先生にはぜひアカデミックな立場から人材定着やその必要性についてお話いただきたいと思いました。

 

定性・定量の両側面で会社と求職者のマッチングが必要


山本教授:
ありがとうございます。私が研究をするようになったのは、経営学部だということもありますが、企業の人事の方とお話しする中で、「今年も苦労して転職者を採ったが、役に立たなかった」「ダメだった」という声を頻繁に聞いたことがきっかけです。

これまで企業は人材の「活用」という言い方をしていましたが、近頃は人材の「活躍」が重要になってきています。つまり転職者が定着するというのは始まりに過ぎず、実際に転職者の評価が高くならなければいけないという時代になっていると思います。

 

「人材活用」から「人材活躍」の時代へ

成田:
先生としては、活躍人材が組織に定着するためには何が必要だと考えられますか?

山本教授:
笑顔で働けること、働きがいがあることでしょう。

ただ、それらの条件は人によって異なります。例えば、ある人がブラック企業と言う会社だとしても、他の人から見たら良い企業であることもあるわけです。

もしかすると、そのうちAIなどの技術によって性格等、パターンごとに機械的にかみあう企業に人材を振り分けることができるようになっていくかも知れませんが、そこまで完璧なものは現状、まだ確立されていません。なので、数字によって分かる定量的なデータと、人の目で見た定性的なデータの両方で、その人材が輝いていける会社を選ぶ、または提示することが必要だと思います。

 

タテ・ヨコ・ナナメのコミュニケーションの「量と質」を担保する

成田:
社員が定着するためにはさまざまな構成要素があると思っています。例えば、ハード面でいえば給与・勤務時間・福利厚生などのお金に関するものや、先生が先ほどおっしゃっていたやりがいや人間関係、教育などが挙げられると思います。先生の中では、人材定着ということにどの要素が一番深く関わっていると思われますか?

山本教授:一番はやはりコミュニケーションでしょう。

上司との「タテ」のコミュニケーションや同期との「ヨコ」のコミュニケーション、他部署との「ナナメ」のコミュニケーションがそれなりに取れていることが重要です。そのような状況であれば、他の要素が悪くても、もう少し頑張ってみようかなということになるためです。

このとき、コミュニケーションで重要なのは、その量と質です。
量というのは、たわいない会話が自然に起こる、冗談を言い合える状況が多いといったことですが、仕事ですから質も重要です。
質というのは、「サジェスチョン」、つまり「そういうこともあるな」「そのやり方いいな」などという新たな発見が得られるかどうか、ということです。
最近一般的になりつつある1on1ミーティングにおいても、上司がサジェスチョンを提供できるような関係を持てるかどうかが重要です。

サジェスチョンがある関係は部下の満足感、定着につながることがあります。良質なコミュニケーション関係にある上司がいれば、離職する前に「今度悩み事を打ち明けてみようかな」などと考えるようになります。良質なコミュニケーションとはこのようにサジェスチョンがあるコミュニケーションのことではないでしょうか。

 

メンタリングができる人材を育成し、機械的な1on1を避ける

成田:
良質なコミュニケーションについて深掘りさせてもらうと、1on1ミーティングの上司について、仕事面を良質にしていくのであれば、直属の上司が良いのではないかと思う反面、その上司に不満を持っている場合もありますよね。そうなった場合に、1on1ミーティングを行う上司は誰が適任なのでしょうか?

山本教授:
一般的には1週間に30分、直属の上司と行っているところが多いですよね。ただ、マネジメントする人数が多すぎる場合には他のメンバーに依頼したり、部下と上司の年齢が離れすぎてうまくメッセージが伝わりづらい場合は、中間の年齢の1人を会話の架け橋役として配置したりするのが有効です。

現状は上司が忙しすぎて機械的なミーティングで終わってしまうパターンが多いようなので、もう少しフレキシブルにできると良いでしょうね。

成田:
必ずしも1on1は直属の上司でなくても良いということなんですね?

山本教授:
はい、シェアード・リーダーシップという考え方を使えば良いと思います。

これは、組織を引っ張る役、問題が起こった時に1人1人に話を聞く役、などリーダーが持つべき機能を複数人でシェアすることを指します。

この時に重要なのは、効果的なメンタリングができる人材を研修によって育成することと、メンターの上にさらにメンターの経験がある「大メンター」をつけて、困った時にメンタリングの仕方を相談できるようにすることです。

 

「傾聴」と「ポイントの整理」が1on1成功のカギ

成田:
1on1ミーティングでは、メンター側の資質やパーソナリティが大事になってくると思うんですが、気を付けることやポイントなどはありますか?

山本教授:
1つ目は傾聴の訓練です。傾聴ができずにどうしても喋りすぎてしまうと、部下との間に壁ができてしまいます。また、相手が聞いてくれていると思える頷きをすることも重要ですね。

次に、話を聞いたうえで、話のポイントを明確化することも重要です。

「今日30分話していて、君の言ったことはこういうことだったよね?」

とまとめることで、相手はその日話したことを再確認することができます。

そのうえで、次の面談に期待を持たせるとさらに効果的です。

例えば、「じゃあ今日話したことに関しては、次回深掘りしてみても良いかもしれないね」などと返すと、部下は「きちんと気にしてくれているんだな」と感じることができます。

このとき、宿題として義務化するのではなく、やんわりと感想ベースで投げかけることが重要です。

 

働きやすさは中堅社員を輝かせることから

成田:
仮に良質なコミュニケーションが取れていて、でも人材が定着しないという組織があった場合に、効果があるものは他にありますか?

山本教授:
一つ目は働きやすさですね。
仕事にやりがいはあっても条件面がそれに見合わない「やりがい搾取」もさまざまな業界で問題になっていますから、まずは働きやすさだと思います。
現在、若い人の残業や転勤、副業に対する要求水準が高くなっているので、そこは少なくとも同業他社と比較して悪い状況をまずは変えていかなくてはなりません。

一番ベンチマークとして必要なことは、20代後半や30代にかけての中堅層の給与を上げることでしょう。

中堅層がルーティンワークをしていたり、時々転職サイトを見ていたりという状況だと、新入社員側からすると後5年、6年で自分もああなってしまうのかと考え、未来が感じられなくなってしまいます。

そのため、中堅層の給与を上げ、職場でキラキラと働いている状態が理想的ですね。そして、そのような中堅層の社員が説明会に参加し採用セミナーに出ることで好印象を与えられます。
ただし、良く見せすぎるのも問題です。いかに説得力を持ってリアルな部分を見せるかというのも重要です。

 

褒める文化と休みのオンオフで働き甲斐を生み出す

成田:
おっしゃるとおり、見せかけだけの採用は淘汰されていくのかなと思っています。ちなみに、「コミュニケーション」「働きやすさ」ともう一つ挙げるとすると何がありますか?

山本教授:
「働き甲斐」です。

でも、働き甲斐をずっと続けて持っている人は多分いないと思っています。

だから,成長感や貢献感が時々でも感じられることが重要であり、そのためにはオンとオフの切り替えが鍵になります。
あまりにも忙しい仕事をずっとやり続けていると働き甲斐を感じる暇がなくなります。

そのため、意識的に休みを取ってもらい、社内表彰などでフィードバックするのが大切です。

とにかく褒める文化を作っていくのが良いでしょう。褒める文化を作る前には、何でも安心して話し合える風通しの良さが必要です。ただ、安心だけでは満足できず、時々褒められたいという気持ちは誰にでもあるので、表彰であったりギフトであったりが必要になってくるということです。

そこまでできる会社は人材の離職率が低くなります。なぜなら、ここまでやる企業であれば、社員1人ひとりも、社員のために色々な事をしてくれている企業であると認識しているはずだからです。

そうなれば、会社との間にもギブ&テイクの関係性ができあがるので、頑張って会社のために行動しようとし、イノベーションの創出にもつながります。

 

エンゲージメント醸成に必要なのは成長予感と貢献実感

成田:
今先生がおっしゃられた「立ち止まる」というのはこれまで意識できていなかった初めての概念でしたね。
話が少し変わってしまいますが、弊社ではエンゲージメントを会社には必要だということを提唱しています。

弊社の組織エンゲージメントがあるという状態は、「会社の目指すべき方向性と個人の目指すべき方向性が連動している状態」と定義づけて考えています。

ただ、弊社の中には個人として目指す方向性はなく、企業が目指すべき方向性を追っている自分が好きという社員もいて、そのような姿のエンゲージメントもありなのではないかと思っています。
そういう点で、先生が考えるエンゲージメントというのがどんなものかを教えていただきたいです。

山本教授:
エンゲージメントには「ワークエンゲージメント」と「従業員エンゲージメント」の2種類があり、おっしゃられたのは「従業員エンゲージメント」だと思います。

組織エンゲージメントは正に、組織の目標または部署の目標と自らの目標を一致させるように努力するということです。自発的なモチベーションの向上と会社・部署との繋がりの両方が含まれている、現在一般的に使われている定義かと思います。
ワークエンゲージメントというのはどちらかというと、「今の仕事に没頭している」というような従業員自身の心理的な状態を示すので、組織現場で使うというよりは、研究ベースで使うものですね。

 

最近若手は成長実感を重視すると言いますが、従業員のリテンションに結び付けるためには成長実感の先にある「成長予感」が大事だと思います。

「一年前よりもできることが増えた」というのは成長実感で、

「来年になれば、先輩のように仕事をこなすことができるのではないか」というのが成長予感ですね。

さらに、エンゲージメントにつなげるためには「貢献実感」が必要と言われています。

成長はどうしても自分だけのことになってしまいがちです。人が働くことで得られるものには「個性の発揮」「社会的役割の実現」「生計の維持」の3つがあります。成長も必要ですが、その先に貢献があり、「私がやったことによって、会社全体とはいかなくても所属するチームの中のある部分では役に立ったのではないか」という実感が、最も強烈にモチベーションに結びつきます。
そんな、自身の貢献をもたらす会社から離れることはないはずです。成長予感も持てて、自身が貢献していることが実際に数字、上司、自身の感覚の3つから確認できたら、定着せざるを得ないと思います。

 

ミッション・ビジョン・バリューとエンゲージメントの相関性

「ミッション」「ビジョン」「バリュー」の役割と創り方

成田:
社会への貢献という意味では、会社の「ミッション・ビジョン・バリュー」を掲げ、浸透させることが重要であるということを、弊社内だけでなく、クライアントにもよくお話しています。先生の立場からエンゲージメント・定着とミッション・ビジョン・バリューの関係性についてどのようにお考えですか?

山本教授:
まず、優秀人材にとっては、絶対に必要なものだと思います。

優秀人材は、「与えられた仕事ができる」という段階を飛び越え、すぐに会社の未来を考えるようになるからです。

会社の経営方針や行動指針も含め、どのように運営していくのかは非常に重要なので、優秀人材にはこれを語りかける場が必要です。

そこで重要になるのが、翻訳、つまり上司の役割です。上司がいかに一人ひとりの若手に合わせた翻訳ができるかどうかです。

優秀人材は執行役員やCEOクラスの発想をしたがり、「戦略」という言葉を多用します。優秀人材を繋ぎとめておくには、そのような意識を受け入れ、集まる場を作って、会社の政策を練らせるのが良いでしょう。管理職手前では遅いので、20代後半から中堅社員の研修でやっていくのが良いかなと思います。

 

フォロワー社員にはマルチタスクが求められる時代に

成田:
とはいえ、会社なので優秀な人材だけが存在するのではなく、よく言う「2・6・2」のような分布になっていると思うんですね。このとき、中間にいる6割の人材に向けても、ミッション・ビジョン・バリューは必要なのでしょうか?

山本教授:
普通の人材ほど、会社に定着したいと考えていると思います。

こうした社員は自分の市場価値はそこまで高くないと思っていて、日常業務のオペレーションには強いですが、発想力がなかったり、新規のビジネスに取り組むのが苦手だったり、という状態です。そのような人材は、ミッション・ビジョン・バリューがあることで会社が長く続くのであれば、わざわざ自分が新しい仕組みを作るということをあえてしなくても良いと考えるため、良い影響があると思います。

また、こうした「フォロワー」的な社員に求められる役割は、「マルチタスク」です。これからイノベーションがさらに進展していき、グローバル化も進行する中で、仕事のやり方が変化してきます。その際にリーダーシップの発揮や新たなビジネスプランの立案は苦手である代わりに、1つの仕事だけでなく、複数の仕事ができる人材が求められるようになると思います。

 

定着という観点では、リモートワークにも長所・短所が存在

成田:
今、コロナの影響でリモートが増えたり、飲み会が減少したりとコミュニケーションに変化が生まれていると思います。そういう意味では、先程挙げていただいた「コミュニケーション」「働きやすさ」「働き甲斐」という3つの概念はどのように捉えていけば良いと思いますか?

山本教授:
最近の調査を見ると、コロナ禍で在宅ワークをしている社員からは、「自分はしっかりとタイムマネジメントを行って成果を出しているが、本当に評価してくれているのだろうか」などと評価に対する不安が出てきているようです。このような状況が続くと、明らかに働き甲斐を阻害してしまいます。

また、働きやすさという観点では、通勤時間が無くなったことが良い点としてよく挙げられますが、これも裏を返せば、オンオフの切り替えができないことになり得ます。

「ワークライフバランス」の部分では確かにテレワークは有効ですが、コロナ終息後には仕事とプライベートの区切りとなるサテライトオフィスのようなものを試してみると良いと思います。

後は、在宅によって暇を持て余す人も増えました。このとき、副業を認めるか認めないかというのも、採用・定着に結びつくテーマかと思います。

 

副業規定は社員を巻き込み、明確でシンプルな内容に

成田:
今の副業は「誰にも言わずに本業に近いことを行ってしまう」というイメージもあり、何らかの線引きが必要かなと思っています。
良い形の副業であれば、働き甲斐や働きやすさがより向上していくと思いますが、どのようなことに気をつけて本業と副業の線引きをしていけば良いのか、先生としてはご意見ありますか?

山本教授:
現状、企業に対して「副業をしている社員はいますか?」と聞いても、「分からない」と回答する会社が多いです。

その理由を調べてみると、会社の副業に関する規定が抽象的な文言で記載されていることが多くあり、日本人だと真面目な人ほどそれにすくんで、黙って副業してしまうことが多くなるからのようです。そうして、黙って副業をやることで、場合によってはストレスの増加や睡眠時間の減少を招く要因にもなります。

成田:
企業側のストレスではなく、自分が黙っていることで「会社に嘘ついているのではないか」と考えてしまい、ストレスを感じてしまうんですね。

山本教授:
そういうことです。ですから、もし新しく副業を認めるのであれば、できれば事例を挙げて分かりやすい規定にしてあげると良いと思います。

ロート製薬さんは副業導入を成功されていますが、最初は社内副業から始めたこと、そして副業に関する規定を若手社員中心に作らせたことがポイントだったと思います。

実際に副業を行うのは若手が多いため、若手が使いやすいルールを作ったことで一気に社内に「副業文化」が広まっていきました。

規定を作る際に他の社員の意見に耳を傾けておくことで、社員にも責任感が芽生えます。優秀人材は副業を禁止している企業には行きたがらないため、若手に副業のルールを作らせることは採用・定着にもプラスだと思いますね。

 

無理にリテンションするよりアルムナイ制度を活用するというアイデアも

成田:
本業にマイナスがないことが担保されているのであれば問題ないと思っています。

ただ、心理的安全を感じる時に、自分のコミュニティが二つあると、どちらに所属しているか迷うというのを聞いたことがあり、それが踏み切れない一つの要因になっています。

例えば所属している会社が理念やミッションを大事にしていて、副業のコミュニティは成果を上げれば働こうが働かまいが関係ない、という状況になったときに、迷ってしまうのではないかということです。

 

山本教授:基本的に人の所属意識とかアイデンティティは、分裂すると混乱して立ち止まってしまうものです。

そのため、大きな引力のある、人を強力に引き付けるような本業を行っている人材が、全く違う価値観の場所で迷いを感じてしまうというのはプラスには働きません。

そのように本当に二つを割り切れる人というのは意外と少ないものです。

そういう意味では社内副業やGoogleが始めた「20%ルール」、つまり労働時間のうち20%は会社の業務以外のことに費やしていいというルールは良いと思います。

実質的に社内にいながら別の仕事ができるわけですから。

ただ、エンジニアのような人たちは、自分のキャリアとか目標に対して、「Want」というよりは「Should」だと思うんですよね。

つまりその仕事を「したい」のではなくて、自分はその仕事を「するべき」だと考えているので、意志が固いのです。

そういう人たちはあえてリテンションするよりも、アウトソース人材としてアイデアをもらったり、「アルムナイ制度(卒業生制度)」などを活用したりして、必要なときにつながれるように関わっていくのも重要だと思います。

 

多様性を認め、融通を効かせることが働きやすさへつながる

組織生産性の高め方

成田:
働きやすさについてもう1つお聞きしたかったことがあります。
商談で40代、50代の経営者の方に「働きやすさ」という言葉を使うと、「最近の若い人はこういう点で甘いな」とか「自分たちの時代ではそんなものはなかったよ」などの言葉が多く出てきてしまうんですね。
働き甲斐の重要性についてはその世代にも響くんですけど、働きやすさって頭では分かっているけれど、行動に移せないことは結構あると思っていて。
経営者の方はこういう部分をどうやって理解して変わらなければいけないのでしょうか?

 

山本教授:
まず、ダイバーシティの時代ですから、昔のモデルは全く通用しないですよね。

会社にいる人は正社員だけではないし、考えていることは意外とみんな違うものです。それに関しては、割り切る必要があると思います。
一番働いている人が望んでいるのは「休みたいときに休める」ことです。

決まった曜日にNO残業デーを作ることではなく、自分が休みたいときに休めるように柔軟性を担保することなんですね。
自由度を高めて、融通を効かせることが、働きやすさにつながるのだと思います。

 

中身と外見両方を整備し、誇りを持って働いてもらえる会社に

成田:
コミュニケーションと働きやすさ、働きがいを高めエンゲージメントを高めていくことで組織に対する誇りというものも出てくると思います。自分の会社にどの程度誇りを持っているかというものは定量化されているものなのでしょうか?

 

山本教授:
「誇り」というもの自体が定まった概念ではないので、定量化はできていないですね。

誇りやプライドというのは自分の会社にも、自分自身にも持つものだと思いますし。また、会社に誇りを持つというのも、その会社の一員として属している自分に誇りを持っているとも言えるでしょう。

会社にアイデンティティを感じるためには、会社自体がキラキラ輝いていること、つまりこれから先伸びていく可能性を感じられる会社であることが重要です。

例えば、きちんと社名や経営理念、ロゴ、カンパニーカラーなどに統一感を持たせてコーポレートアイデンティティを策定する。そして、キラキラ輝いている社員が自分の夢と会社の方向性が結びついた「夢」を語る環境を整える。このように、会社の中身だけでなく外見も整えることが必要だと思います。

 

成田:

ありがとうございます。人材定着に向け沢山の貴重なお話しを頂き、大変参考になりました。

次回以降は弊社で運用している「THANKS GIFT」を機能面や事例をお話しさせて頂き、是非山本先生の見解を頂戴できますと幸甚です。

 

山本教授:

承知しました。次回以降も宜しくお願い致します。

 

次回に続く